向日葵の歌

【松崎詩織・著】沙智が初めて愛した人、それは実の兄、医学部へ通う翔だった。もちろん誰にも言えずに。が、兄の名前を口にしながら快楽に耽った激しい自慰を、偶然、覗かれた夜、一度だけギリギリの願いが……直後、家を出た兄は事故で死ぬ。夏、暑い盛りのことだった。その日から、沙智は声を失った。大学生になったとき、そんな沙智を愛してくれる人が現れる。初めて結ばれる夜、彼は幼い頃に心臓移植で生き延びていたことを彼女に話して聞かせるのだったが……

さくらの夜

【松崎詩織・著】三十年前、中学の卒業式が終わった日の夜、古賀はこっそり夜の教室に佇んでいた。桜の花びらが窓の外を、鮮烈な色彩を持って降り続けていた。そして…白川先生もひとり、教室にいた。東京の私立中学を辞めて、教員不足が深刻な故郷のために三年前に戻ってきてくれた先生。春からは東京の高校にいってしまう古賀は、育んだ恋をこの一瞬に遂げることで頭が一杯になってしまい…そして、その故郷にいま仕事で来ている。急な泊まりに宿を案内してくれた、あのときの桜を眺めていた女性──ラストに鮮やかな展開が待ち受ける、官能文芸誌「悦」掲載の、傑作短編!